生物学部 生物学科 竹内裕一HPへようこそ


東海大学札幌キャンパス 生物学部 生物学科の研究室です(教授 竹内裕一)

フロンガスなどの含塩素化合物の大気中への放出は、成層圏のオゾン層を破壊し、生物にとって有害な太陽紫外線(波長290320 nmB領域紫外線;UV-B)の地表面への到達量を増加させます。植物はその成育にエネルギー源としての太陽光を必要とし、その生活環を通じて紫外線によるストレスを受け続けています。そのため、植物はその進化の過程で紫外線に対するさまざまな抵抗メカニズムを進化させて来たと考えられます。

 われわれの研究室では、紫外線の植物影響を中心テーマに、植物の環境適応、進化の過程に関する知見を得ることを目的に研究を行っています。生物と環境との関わりに興味を持っている学生の参加を期待しています。



研究室紹介


 以下に研究の概要を紹介します。紫外線の植物影響については、成書(『植物生理学講座5「環境応答」(寺島一郎編、朝倉書店)』の「紫外線による傷害」も是非参考にしてください。

 

【紫外線による植物の成長阻害と可視的傷害の誘導】

  キュウリの芽生えにおける変化

UV-B(波長290320 nmB領域紫外線)を植物に照射すると、成長阻害とともにさまざまな可視的傷害が誘導されます。

 波長290320 nmUV-Bを照射しながら、キュウリの芽生えを育てると、子葉の成長阻害だけでなく、次のような形態的変化を引き起こします[Takeuchi et al. (1989)  Physiol. Plant. 76: 425-430; Takeuchi et al. (1993) Plant Cell Physiol. 34: 913-917]。

○ 子葉組織の肥厚

○ 単位面積あたりのクロロフィル量の増加

○ グレージング(表面の光沢が増す現象)

 ○ 子葉周辺部の湾曲

  右: UV-B照射下で6日間成育させたキュウリの芽生え
左:対照(-UV-B



 これらの可視的な変化のうち、子葉表面の光沢の増加は、UV-B照射による子葉の表面構造の変化のためと考えられます。上の写真は、上からUV-B無照射, 0.15 W m2, 0.60 W m2UV-Bを1日12時間、6日間照射したキュウリ芽生えの子葉表面の走査型電子顕微鏡写真です。 0.60 W m2UV-Bを照射した子葉では、表皮細胞がつぶれ、子葉表面が平滑になっているのが観察されます。また、 0.15 W m2UV-Bを照射した子葉では、よく発達した表皮細胞による凸凹が見られますが、その表面はUV-B無照射のものと比べなめらかになっています。これは、UV-Bにより単位葉面積あたりのワックス量が増加 - ワックス層の肥厚が引き起こされたためと考えられます[Fukuda et al. (2008) J. Plant Res. 121: 179-189]。

  タバコの芽生えにおける変化

 波長290320 nmUV-Bを 照射しながら、タバコの芽生えを育成すると、ブロンジング(表面の日焼けによる退色化現象)、グレージング、クロロシス(クロロフィル生成が抑制されることによる黄化現象)などの可視的傷害が観察されます。この時、植物ホルモンの1つであるエチレンの放出が見られます。エチレンの前駆体であるACC1-aminocyclopropane-1-carboxylic acid)の蓄積およびACC合成酵素活性の上昇が傷害の発現に先立って見られること、ならびにエチレンの合成阻害剤であるAVGL-α-2-aminoethoxy vinyl glycine)処理によって傷害が軽減することから、UV-B照射による可視的障害の発現とエチレン生成が密接に関連していることが明らかになりました[Nara and Takeuchi (2002) J. Plant Res. 115: 247-253
右:UV-B照射下で8日間成育させたタバコの芽生え
左:対照(-UV-B


【紫外線の遺伝子発現におよぼす影響】

紫外線は、活性酸素消去系酵素の誘導などさまざまな遺伝子の発現に影響を及ぼします[Takeuchi et al. (1996) J. Plant Physiol. 147: 589-592.]。タバコの芽生えをUV-B照射下で育成し、葉中のタンパク質を2次元電気泳動で分析すると、対照(-UV-B)のサンプルでは見られない、いくつものタンパク質(ポリペプチド)の合成が誘導されることが分かりました。N末端アミノ酸の分析から、これらのタンパク質の多くは、植物病原菌がタバコに感染した時に特異的に誘導させるPR-タンパク質(pathogenesis related protein)であることが明らかになりました[Fujibe et al. (2000) J. Plant Res. 113: 387-394]。


【紫外線によって形成されるDNA損傷とその修復メカニズム】

植物の葉の表面は表皮ワックスによる疎水性の層で覆われており、照射された紫外線の一部は反射、散乱を受けます。葉の内部に透過した紫外線は表皮細胞の液胞中の紫外線吸収物質に吸収され、光合成を行なう葉緑体を持つ葉肉細胞に到達する紫外線はわずかだと言われています。このように、表紙細胞は太陽放射中の光合成系に有効な400700 nmの波長域の減衰を最小限に抑えると同時に、紫外線を選択的に吸収、除去するためのフィルターとしての機能を有しています。


葉の表皮組織における紫外線防御機構

 

表皮組織を透過した紫外線は生体内のDNAやタンパク質に吸収され、さまざまな損傷を形成します。生物はその進化の過程において、損傷を修復する機構を獲得してきたと考えられます。


◎紫外線による直接的DNA損傷形成とその修復機構

 細胞の中で紫外線は遺伝子の本体であるDNAに吸収され、さまざまな損傷を形成します。損傷の中で最も量的に多いのは、隣り合ったピリミジン塩基(TpT)間で形成される二量体[シクロブタン型ピリジンダイマー(CPD)と(6-4)光生成物((6-4)photoproduct)]です。これらDNA損傷の形成は遺伝子の転写や複製を阻害し、細胞死をもたらすと考えられています。植物では、形成されたピリミジン二量体はCPD(6-4)photoproductそれぞれに特異的な酵素によって、元のピリミジン塩基に速やかに戻されることが明らかになりました。この酵素は、紫外線から青の波長域の光をエネルギーとして利用するため、DNA光修復酵素(DNA photolyase)と呼ばれ、その光修復活性が紫外線に対する植物の抵抗性を大きく左右することが知られています[Takeuchi et al. (1996) Plant Cell Physiol. 37: 181-187; Takeuchi et al. (1998) Plant Cell Physiol. 39: 745-750; Hada et al. (2000) Plant Cell Physiol. 41: 644-648; Takeuchi et al. (2000) Environ. Sci. 13: 351-355. Takeuchi et al. (2007) J. Plant Res. 120: 365-374.]。




           紫外線によるDNA中のピリミジン二量体の形成とその光修復


紫外線による間接的DNA損傷形成

 紫外線照射により生成される活性酸素分子種(ROS)もDNAに酸化的損傷を与えます。代表的な酸化的DNA損傷の一つである8-hydroxy-2’-deoxyguanosine8-OHdG)はDNA複製の際に塩基の置換(G:C to T:A transversion)を引き起こすため、突然変異の原因になると考えられています。植物でも、紫外線照射によって8-OHdG形成が誘導されること、ならびに植物の酸化ストレスの指標としての8-OHdG測定の有効性が明らかになりました[Watanabe et al. (2006) J. Plant Res. 119: 239-246; Yin et al. (2010) Planta 231: 609-621]。

 

活性酸素(ROS)によるDNA中の8-OHdGの形成